TH.Another Room

学生時代に書いた文芸作品をアップしています。

殺戮のルナ・メイジ 0章

 彼女にとって人類を滅ぼすことなど造作もなかった。彼女にとって自分以外の人間など芥ほどの価値はなかった。彼女にとって命になど塵と差はなかった。彼女からしてみれば現実と虚無に何の違いがあるのか分からなかった。

 無数の命は無の彼方へと去り、ただ血塗れの死体が世界中に散らばっていた。苦悶の表情を浮かべた死体達に魔女を呪い殺す力はなく、天に裁きを下せない。街にも山にも草原にも、四肢のちぎれた骸は転がっている。それは魔女の行使による結末。あらゆる生命は無に帰して、この地上には赤い髪の少女しかいない。いかなる魔術も兵器も、彼女の前には無力だったのだ。
 清廉な建物と、雄大な自然と共に、彼女は今、生きながら死んでいる。この世界の全ては彼女のものだ。けれど、この地上にはもう夢が失われているのだから、少女は堕落する他に道がなかったのである。
無限の堕落の中で、彼女は物思いに耽っている。海は蒼くて、森は緑で、空は青くて、少女の髪は紅緋色。でもそれらは本当にそんな色をしているのか? それらがそうである意味は? それらは夢を見るのか? 彼女は、世界が終わったあの時から、いつも考え事をしていた。脳を動かすのは嫌いではないし、空白の世界では、やることが限られるのだ。
 心は退屈だったけれど、体を動かす気力はなかったから、結局何もしない毎日を送っていた。人類が滅びても、自然や建物、食糧や玩具等が残存している今の世界は、ある種の人間にとって、まさに理想郷であり、聖地とも言える。
 紅蓮の魔女は、とある森の奥深くにある小さな木の家で暮らしている。ワンルームだが八畳程の広さなので住み心地は悪くない。部屋の中には幼い頃から大好きだった絵本や小説、七歳の誕生日を迎えてから、すべてが壊れた“あの日”まで書き続けていた赤い日記帳、慣れ親しんだバイブレータ、一三歳の頃より愛用するドラッグが散乱しており、掃除も碌にしない上に窓を開けようとしないため、あちこちから汚臭が漂っている。この部屋には人類を滅ぼして以来、生きた屍と化した彼女にとっての世界が凝縮されているのだ。
「……ひま……だるい……死にたい……」
 ベッドに横たわりながら何の意味もなく、誰にも届かない嘆きを吐き出す。いっそ狂えれば楽なのに、ドラッグに溺れようとしても、何故か身体や意識も、そのままだ。
「……変ね……あたし……ちっともおかしく……ならない……」
 ベッドの傍の窓から、綺羅星が輝く空を眺めているうちに、ふと思った。夜空に輝く星達は何故輝いているのか、何故落ちてこようとしないのか、仲間達と群れながら輝くよりも、この地上に落下することを望むたった一つの星があってもいい。星だって堕落の味を知りたいかもしれない。星だって夜空が裂けて、虚無の中へ飲み込まれてみたいかもしれない。彼女は心の中で綺羅星達に尋ねてみた。
(……ねえ、あんた達は朝になったら誰にも見えなくなっちゃうのに、何でそんなに必死に輝いてるのよ。虚しくならないの?)
 綺羅星達は何も答えない。
「……つまんない……」
 彼女は夜空から視線を外し、枕に顔を突っ伏せて、寝ようとする。けれど眠りたいのに、眠くなかった。頭痛と眩暈がしたからだ。幻が「お前に眠る資格はない」と語りかけてくるからだ。それでも睡りたかった。もし自分が枕するうちに死んでいたら儲けもの、軽い目眩に苦しめられたら現実。これほど陰鬱なギャンブルも他にないだろう。要約すれば、この身体がどうなってもいいから、早く楽になりたいだけ。
 それでも後悔はしていなかった。これはこれで世界にとって正しい在り方だろう。大抵の人間、いやすべての生命には元より存在理由などない、それどころか自分たちが生まれてきたこと、生きることが大罪なのだ。こうした破滅的な思想を形成したわけも、とうに忘れている。そもそも何処で生まれたか、どんな風に育ったか、何を学んできたか、どんな人達と関わってきたか、そういったことすら、よく覚えていなかった。かつて望んだ夢を具現化したのに、何故ちっとも嬉しくないのか。彼女自身が分からなかった。一面の黒が視界を覆っていた。
 すべては沈黙していた。世界も、少女の魂も、何もかも空っぽのまま、時は流れている。

 

 その日の夜は、満月が空に貼り付いていた。それは彼女にとって夜空の至宝。退廃した現世の街並みすら、月明かりの下では優美なる都と化す。古びた廃墟もメルヘンチックなお城へと早変わりし、満月は囁くのだ。「ユートピアは、もうすぐやってくる」。もしかすれば、こんな世界のどこかで白猫とドブネズミが手を繋ぎながら踊っているかもしれない。二匹は幸せそうに笑いあっていて、ダンスの終盤にキスをするのかもしれない。そしてお月様と夜空に、こんばんは! と笑顔で語りかけてみたくなったから、今夜はカーニバル・ナイト。

 だからこそ少女は、骸たちの集う街へ遊びにきたのだ。地上の地獄を見渡すのも久しぶりだった。アスファルトやコンクリートに染み込んだ黒い血、散乱した手足、屍どもの顔には絶望が表れていた。死の香りが魔女の胸をときめかせた。
 彼女は高らかに歌い上げる。
「何もかもが素晴らしいわね! 死ねば誰もが仲間なんだから! そう、あたしは今、生きている! 満月も祝福してる。この世が創られた唯一つの意味は、あたしが全ての生命を踏み躙るためだって!」
 誰にも届かぬ叫び声を放ち、どうしたいのだ、どうして死体の一部をナイフで切り落としたのだ、何故お前は生首の断面を唇で吸いながら、腐った肌を愛でているのだ……そう誰かが魔女に呼びかけたが、それが誰の声なのかは、わからない。
 けれど、しばらくもしないうちに名も知らぬ男の頭部を投げ捨て、暗闇を顔に塗りながら、呟いた。
「……下らない……」
 首遊びにも飽きた。唾を吐き捨てた。魔女の足元に転がる骸達は、白目を剥き出しにして夜を眺めている。魔女は黒い血のついた腕と足を拾う。暗い空へ放り投げる。そして彼女は、足下の骸の顔を踏み潰して、自らを絞め殺すように、修羅の叫びを上げる。
「ドブネズミはあっ! 世界中のどんな宝石よりもおおお! 美しいいいッッッッッ!!!!!」
 街中にソウルヴォイスが響き渡る。肩まである赤い髪を揺らし、青の心を解き放つ。紅の叫びによって、僅かながらも自我を浄化できた。けれど。すぐに冷えた。この儀式は結局のところ徒労に過ぎないのだと。魂を空にぶつけようが奇跡は起きないと。私だけの夜が何かを生むはずなど永遠にないのだと。
 それでも少女が、空に満月が現れる度に外へ飛び出し、虚しさを体に重ねてしまうのは、彼女の最期の望みが血塗られた自己を切り落とすことだから。

 今日も、限りなく狂気に近いライブを終えたあとに生じる想いは、ひとつだけ。いつも通り、虚しくて仕方ない。

 満月が暗雲に隠れた頃、魔女は死体遊びにも飽きたから、帰ることにした。退廃のこびりついた、害虫と恋人のいないボロ家に。あそこに戻ったところでドラッグやバイブレータに溺れることしかできないのだろうが。現実逃避のために絵本や小説の世界に埋没しようとしても、床に散らばった本どもの内に宿る意志を読み取れなくなった今、あれらは単なる紙束でしかない。

 いつしか彼女は街を去って、夜露に濡れる森の中へ辿り着いていた。寒空の風がびゅうびゅうと吹き荒れている。赤い葉っぱたちがひらひらと落ちてきたが、血の雨や猛毒の林檎は降りそうになく、切り株は歩かない。一輪の白い花が自分の目の前へやってきた少女に微笑むと、魔女はそれを踏みにじった。
 彼女は紅い葉で着飾った木々のそばを通る。住処に戻るまで足を進める。ふらふら、ふらふら。端正な顔からは生気が失われている。吊り目は暗黒に囚われている。黒いストラップシューズの裏側は土に塗れる。紫色のPコートの袖と黒いスカートが小さく揺れる。首に巻かれた赤いスカーフと、その下にかけられたネズミのペンダントが強い風になびく。枝葉の間から夜が差す。
 紅い木々と、青紫色の切株が少女に話しかけようとしたが、あの宵闇のとりついた横顔を見てしまうと何の言葉もかけられない。彼等には、彼女が生きた亡骸にしか見えなかった。女の横顔は語っていた。
「猫の喉が潰れちゃったから、瞳の中から命の泉が無くなってしまったの」
 樹木の匂いが鼻の中に伝わってくる。それは彼女にとって何の変哲もない死臭。魔女にとって一つの死体と一本の木に全く違いは無い。どこにいても考えることはいつも一緒だ。少女はあの日から、永遠にシロイネコと手を繋ぎたいだけの屍となってしまったから。
 魔女の影の上を浮かぶ使い魔は、大罪を背負いし主の後ろ姿を眺めながら、思った。
「不思議だ。絶息を望むにもかかわらず、未だに呼吸をしていることが。私は知っている。絶大なる魔力を誇ろうとも、細胞や血がどれだけ狂ったものであろうとも、自らの肉塊ぐらい壊す気になれば、すぐにでも壊せることを。紅で焼き尽くすことなど、わけもないはず……私には彼女が未だに生き続けている理由が、分からない」
 魔女の王は絶命の王国を歩きながら、見えない涙を流しながら、崩壊してゆく。
 かつて、かつて、かつて、あの日……。嗚呼、思い出せない、思い出せない、本当に思い出せない! 森がぐらぐら揺れている。それもドラッグのおかげ? 違う。少女の掌から行方不明になった白い猫のせいだ。血の色は赤じゃなくて白だ。血は液体じゃなくて、砂だ。それを教えてくれた……は夢の中にすら現れない。常闇に……の姿は浮かばない。手足はおろか、耳すらも! 少女は……の耳が大好きだった。それなのに……は砂塵と化したのだ! 空がくるくると廻る。世界がぐにゃぐにゃと歪んでゆく。思い出せない! 思い出したい! 思い出したくない! あの優しすぎる声を! あの白くて柔らかい髪を! あのスカイブルーの瞳を! 目蓋の裏から暗闇が銃弾を放つ。それは幼子の声となって、被弾する。ねえ、どうしてこんなところで暮らしているの? 何で僕達の手足はとれちゃったの? 教えてよ、お姉ちゃんはどこに居るの? 吐き気がする。怨嗟の声に精神を破壊された少女は、ばたりと倒れる。 
 夜風吹く森の中、彼女は暗い土の上でうつぶせながら、目を閉じる。不浄な荒土がコートとスカートを汚す。辺りは、単調な絶望と暗黒への希望に包まれていた。漆黒の景色には何も浮かんでこなかった。闇は唸り声をあげず、黙り込んでいた。銀の星達は、地上めがけて落下しようともしなかった。
 風の下の魔女は、宵闇の底で蠢きもせずにいる。

 

 …………ブウウーーーーーーンンンーーーンンン…………。

 そんな時、何の前触れも無く、蜜蜂の唸るような音が聴こえてきた。ノイズが耳の中で反芻する。脳味噌が揺れる。意識が僅かに戻ってくる。少女は億劫そうに目蓋を開き、上半身を反り上げて周囲を見渡す。だが、おかしなところは見当たらない。森の中で、緋色の木々が、本当の笑い方を知らない人間のように哂っている。地を這う木の根が地獄へ誘おうと手招きしている。血塗られた無数の亡者が魔女を見つめている。嗚呼、ただの日常だ。いつもどおりの景色が彼女を鬱屈にさせるだけだった。目蓋を再び閉じる。完全なる虚構の世界に辿り着くために、あるいは永遠の眠りにつくために。冷厳な風が細い身体に当たる。一筋の涙は流れない。無照明の舞台の上では、蜜蜂の唸り声のようなノイズは鳴り続いたまま。

 少女は呻く。

「…… …… …… ……」

 彼女が「空白」を吐いた瞬間、呻き声に反応するように、冷たい夜が、言葉を放った。

 

「……ル……ナ……?……」

 

 幻聴? 少女は頬を軽くつねる。

 しかし雑音と共に、空は、ささめく。
「……ルナ?……」

 

 彼女は、目を、見開く。聴こえる、宙から、耳に入るはずのないヴォイスが。辺りには何者も居ない。けれども、どこかで聞いたことがあるような気がする上に、何故だか心に引っかかる。単なる二文字が世界変革の予兆を感じさせた。ルナ、恐らく名前? それなら、名の持ち主は誰? ルナルナルナ、ル・ナ・ル・ナ、と独り言を繰り返す。あの日、失われたはずの心臓が高鳴る。びゅうびゅうと唸り声を上げる夜風と共に、少女は柔らかな身体をゆっくりと起こし、立つ。彼女は森の中をもう一度見渡す。おかしなところは見当たらない。紅い木々は無表情となり、地を這う木の根は手招きをやめ、死者たちはいなくなっている。声は、どこからか聴こえてくるというより、誰かがテレパシーで魔女の魂に訴えかけてくるようであった。世界は執拗に「ルナ」と繰り返している。そのせいか、また頭がグラグラしてきた。それでも少女は探しはじめる。肉体の上げる悲鳴を無視して。「ルナ」の真実を求めて。

 そして彷徨うなかで一つの結論を出した。
 わたしがルナ? 
 少女は歩みを止める。夜の森からペンダントへ目を移す。心のなかで首まわりからぶら下がった灰色のネズミに尋ねた。あたしがルナなら、どうして自分の名を忘れていたの? 
 ネズミは何も答えない。
 彼女は苦笑した。この世のありとあらゆる物はぜーんぶ無価値なの。命だってそう、本当は赤ん坊の頃から、みんなみんな亡骸と違いはないの。それはあたしだって。おんなじ。だから、あたしがルナだからって、どうでもいいのよ。
 魔女は崩壊の大地に寝転がり、瞼を閉じる。わかってる、わたしの物語が、とっくに終わっていることぐらい。
 だが、そう思ったとき、唐突にノイズが止まり、完全なる沈黙が訪れた。奇妙に感じたため目を開くと、

 気がついた。

 

「革命」が起こっていたことを。

 
 それはあまりにも突然すぎた
 視線を闇に移していた隙に 一瞬で
 木々が 土が 風が 
 なくなっていた
 辺り一帯は 
 まっさらな純白に 覆われていた
 そこで

 彼女は浮かんでいる  
 心臓の 高鳴る音が
 木霊している
 そこに在るのは 
 たったひとりの赤髪の少女だけ

 彼女は、今、自分が、どんな顔をしているのか、どんな言葉を発すればいいのか、まるで分からなかった。 
 再びノイズが鳴り出す。そして何の前触れもなく、青年の透き通った声が、少女に語りかけてくる。
「……ルナ……やっと……見つけた……」
 混沌が、混沌が、何もかもを司っている。少女は錯乱する。心臓は鳴っているのに、視界のすべてが真っ白だから。完全なる無の空間、白く無限の虚無が、手足を縛りつけている。身体が何所かに吸い込まれる感じがする。

 だけど、どうして、死にたくなるほど綺麗な声をしているのだろう。あまりに懐かしすぎて、涙が零れそうになるのは、なぜなのだろう! 
 少女は見えない“彼”に語りかけた。
「……あたしを呼んでいるのよね?……」
 夢幻のなかの青年は、彼女の呼びかけに応える。
「……久しぶりだね……ルナ……」
 僅かな沈黙の間、ぶつりと切れた記憶の糸を辿る。……嗚呼、ようやく思い出せた。そう、間違いない、わたしの名前はルナで、ファミリーネームはカノン。大魔道師の両親の一人娘であり、親愛なる隣人と偉大なる歴史から呪われた十八歳の少女であり、世界のすべてを破壊した魔女の王、だった。
 そう、無意味な情報に過ぎない。自分のことを思い出したところで、何の感慨も無い! 
「……なん……で……あたしを……呼んで……くれたの……?」
「……もう一度……ルナにとっての青空を……見せたかった……いや……もう一度、一緒に見たかったんだ……」
 彼の言葉が、胸の奥を抱き締める。暖かな陽の光が体中に伝わってくる。その陳腐な表現はルナにとって、神様の誕生日よりも素晴らしく、世界中の何よりも愛おしかった。何時の間にか、一筋の涙が、頬を流れて、無垢なる白の中に、落ちて、なくなった。それでも、わからなかった。あの声を耳にした覚えはあるのだが、彼の名前が、思い出せない。ルナは漠然と理解した。多分わたしは自分の魂にとって、本当に大切な記憶を忘れてしまったのだ、と。だから問い掛ける。「……ごめんなさい、折角お話してくれるのに、あなたはあたしを知っているのに、あなたのことを、ちっとも覚えてない……」

「……忘れちゃった?……構わない……大切なのは……僕のことじゃなくて……ルナの未来……」

 ……未来、未来、未来……嗚呼、髪を掻き毟りたくなる衝動に駆られる。壊れた金切り声を上げたくなってしまう。

「……ねえ? ルナ……いつか言ったじゃないか、本当のルナはすごく可愛くて優しい子だから、世界中のみんなから愛されるべきなんだって。世界が間違いを犯したせいで、君が誰から忌み嫌われても、僕はルナの、ルナにしかないあたたかさを誰よりも知っているんだ。そして僕は、たとえ君の側から離れていたって……」
 不思議で仕方なかった。彼の言うことなどルナにとっては戯言に過ぎないはずなのに、耳を傾ければ心が安らかになっていくのが。何故だろうか、彼の言葉の一つ一つを拾うたびに心が壊れていくのは! 
「……君の右手を、僕の左手は繋いでいる……」
 そして、いつのまにか、頭が
「わかるよ……ルナの掌が凍えてるのは、温もりを求めているからだって……」
 裂ける 爆ぜる 張り裂ける
「……だから僕は残された力を使って、君にとっての永遠の宝物が見つかる場所に連れて行く……それが僕からの最後のプレゼント……」

 回る 廻る まわる
「……大切なのは……あの時のように……青空から宝石を掴み取れる日がくること……」
 死にそう 死にそう! 死にそう!! 
「……いいかい?……今から……ルナの肉体をそこに運ぶ……そうすれば……奇跡は起きる……大丈夫……怖がらなくていい……たとえ……新しい現実が君を拒んだとしても……もうひとりの僕がそこにいる……」
 だから
「……そこだと……もう……君と話せなくなるけど……ルナが……『それ』さえ手放さなければ……僕は……のことを……ずうっと……守ってあげられる……」
 今
「……たぶんルナは……僕の言葉を……すごく古臭く感じるかもしれない……でも僕は……君と過ごしたありふれた日々の中で……紡いだありふれた言葉のひとつひとつに……太陽の輝きを感じたからこそ……わかるんだ……もう一度……世界で一番幸せそうに笑ってくれる瞬間が……必ずやってくることを……」
 どこに
「……だから……飛び立つべきなんだ……ルナの本当の居場所へ……」
 い
「……もう少し経てば……僕たちの……別れの時が……やってくる……でもね……それは……けして……二つの魂が……離れ離れになるっていう意味じゃないんだ……」
 る

「……ルナ……これだけは忘れないで……数多の星でさまよう……すべての魂は……どんなに壊れた世界の中でも……絶対に……心の糸を結ぶことができることを……」
 の
「……僕が……君にとっての幸せを……掌に感じてほしいのは……僕の魂が……白い雲の漂う青空と同じくらい……ルナを……大好きだったから……」
 か
「……戯言じゃない……かならず……夜明けはやってくる……その時がくるまで……僕は……ずっと……祈り続ける……」
 わか
「……僕は知っているんだ……ドブネズミの……」
 らな
「……には映らない……」
 い

「……うつくしさを……」
 
 それからしばらくの間

 

 ルナは