TH.Another Room

学生時代に書いた文芸作品をアップしています。

2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧

「聖剣がそこらじゅうに落ちている世界」

ある日の朝、散歩中に、またしても大地に刺さりし聖剣を見つけた。ピクミンを引っこ抜くような感じでエイヤッと入手した。どうせ昨晩、勇者の責務に耐えかねた者が、この家のあたりに放棄していったのであろう。 持主のいなくなった聖剣を見かけるたびに、放…

「毛布の上には何もない」

朝、起きて、気がついた。見知らぬ女がベッドの上で、毛布をかけられて死んでいる。 これが死体であるのは、なんとなく分かる。そう理解していること自体が、我ながら奇妙なものだと思う。息はしていないし、何者かから後頭部を鈍器で殴られて逝ってしまった…

「魔術師の塔」

東京タワーに足を運んだことは一度もないのだが、テレビや雑誌などでは何度も目にしてきた。いま、私の目の前にそびえ立つ、この巨大な塔は、東京タワーに酷似しているのだが、塔の周囲には田園風景が広がっている。狭い砂利道の傍らにて大爆発のような何か…

「死骸」

扉を開けると、悪夢が広がっていた。「私は、悪いことなんてしてない」と泣き叫ぶ少女の声の喧しい空間に投げ出されていたのだ。 黒い氷柱のような立体的な映像が頭上に降り注がれている。身体から血は流れていないが、鋭い痛みであれば生じている。その蜂の…

「妖精探し」

前人未踏の地に到達した。ここは、一見しただけでは単なる雑木林にしか思われない場であるが、実は妖精の生息地の一つである。詳細は記載できないのだが、私が追い求めている妖精というのは木の葉を主食とする生き物であり、この林から集められる葉っぱ全て…

「少年と死神」

一 ポケットの中のビスケットを叩いてみた。パキッという音はしたはずなのだが、さっきまでは満月のような形をしていたビスケットは一枚しか入っていなかった。右手の、人差し指と中指と親指に摘まれた半月を無邪気な笑顔で観察していたら、背後から深夜の闇…

「夢とは何か」

悪夢のようで、悪夢でない夢がある。羽を引き千切られる小鳥が痛みを覚えず、むしろ空を飛ぶために必要な過程であったと喜んでいるのを目撃する類の夢を見ることがある。瀕死の猫がコンビニの電子レンジに投げ込まれて温められて、生き返るという内容のもの…