TH.Another Room

学生時代に書いた文芸作品をアップしています。

「妖精探し」

 前人未踏の地に到達した。ここは、一見しただけでは単なる雑木林にしか思われない場であるが、実は妖精の生息地の一つである。詳細は記載できないのだが、私が追い求めている妖精というのは木の葉を主食とする生き物であり、この林から集められる葉っぱ全てには、魔法がかけられているのだ。
 先述の「魔法の葉っぱ」を何枚か持ち帰るために、私は彼等の隠れ里に侵入した。だが奇妙なことに、いや、当然といえば当然なのかもしれないのだが、図鑑に描かれていた妖精らしき存在は、どこにも見当たらない。彼等の許可なく葉を採取しようと手に取った瞬間に、矢の雨が降り注がれてしまいゲーム・オーバーになるという噂を仕事仲間から伝えられているため、とりあえず話の通じそうな者を念の為に探し出さなくてはならない。
「ここだよ、ここ。こっち、こっち」
 背後から声が聞こえてきた。すかさずヒップホルスターから拳銃を取り出し、発砲した。返り血を浴びてしまった。仕事仲間から聞いていたとおり、アレは、やはり簡単には手に入らない代物なのだと確信した。私の探し求めている妖精の中には、どうやら食糧を得るために幻聴を発生させて標的を殺そうとするタイプもいるという情報も、デマカセではなかった。足元に転がっている、可愛らしくも何ともない薄汚れたインプを蹴り飛ばし、早く再会したい、という意味の込められた溜息をつく。もう俺は幻影では満たされないんだ。
 しかし、住民たちは一匹を射殺した程度で恐れをなしてしまったのか、次なる獲物は現れなかった。狩りをするために赴いたわけではないのだが、次から次へと敵が襲いかかってくる展開になるものだと感じていたから、見えざる悪魔への殺意が漲っていたのである。
 だが現在、せっかく尋常ならざる殺戮への欲望が生じているにもかかわらず、この雑木林の中で生きているのは、俺だけなのかもしれない。

 早く再会したい。

 仕方ないので、とりあえず適当な葉っぱを一枚だけ拾って、それを持ち帰ることにした。胸ポケットの中からライターを取り出し、左手に摘まれている妖精の住処に到達できた証であるのかもしれない、この青くて丸くて薄っぺらい葉に点火した。そして瞼を閉じた。

 これで明日になれば、貴方が「おはよう」と微笑みかけてくれるのかもしれない。

 

 人間の世界に帰還してから、すぐさま私は仕事仲間に電話で、お礼の言葉を伝えた。だが彼は、いつものように、「いい加減、夢を見るのは止めるんだ。君だったら目覚めの時ぐらい、自力で迎えられるはずだろう」という説教しか返してくれなかった。冒険しないと壊れてしまいそうな俺の気持ちなど少しも分かろうともしないで。