短詩集「流れ落ちてゆく青空」
「らんらんらん」
わたしは青空を切り裂いた。
空の青は真紅の薔薇となって、ひとりぼっちの少女を喜ばせる。
母は眠った。大地は震えていない。
鎖から解き放たれた処女は銃を手にして街を徘徊する。
夜の剣は眠らない。白銀の降り積もる町のなかで割れる蛍光灯。
テレビに映るアイドルを手鏡に閉じ込めると、灼熱の炎が体中に流れる。
「魂の流れ」
餅の上の蜜柑を頬張ると、黄金の口紅をつけた達磨が空を舞う。
計画された命は堕落を避けられない。落下する道路、落下する高層ビル。
トランプに殺された父。白い熊は十字架を背負い、立ち上がる。
ケセラケセラと嗤う蛙が一匹。
「100年分の苦しみ」
剣玉を振り回す。烏が鳴く。
氷の声がきこえる。
おもちゃ箱を壊すチンパンジー。
孤独の爪。焼け落ちた寺の中の夫婦は、透明の胃薬を飲む。
心は配れない。
「罪と罰」
愛という言葉を信じない亀。
好物は同族。
緑色の肌と白い糸を海に沈めるミドリガメ。
札束を燃やす乙女。
軽い軽い軽い。
車は祝福しない。
駒の復讐。
時計の針は進む。
「傘」
空の傘。
土を雨から守らない。
空の傘。
神の涙を落とさない。
「発見」
占い師とゴーストバードは旅に出る。
山を登った。四肢と出合った。海で泳いだ。瘴気の声がきこえた。
街を歩いた。虚無主義に取り付かれたと錯覚している青年を見つけた。
彼は空を飛べない。二人は青空を切り裂いた。
彼は少年になり、天井の蜘蛛を狙撃する。
「愛すべき疾走」
走る釜飯。揺れる贅肉。
「色弱」
定年退職を迎えたニワトリは、
世界の隙間を知りすぎたせいで、
物語を創れない。
「憎悪」
子馬虐待装置。
悪夢から悪を奪う処刑者。
「側面」
一人には八枚の仮面がある。
嘲笑の仮面、慈愛の仮面、殺戮者の仮面、幼子の仮面、
智者の仮面、英雄の仮面、虚無の仮面、文房具の仮面。
「鎖」
遺された祈り。
鮮やかな黒髪と柔らかい穴。
心と力と混沌と狂気と絶望と小指。
二つの笑顔。
二匹の動物。
死者と神は一体となる。
産業廃棄物の集う街。
思い出は血を流す。
「盲目の望み」
重い荷物の中身は教義。窮屈な空の隙間で漂う、盲目クラゲ。
皇帝の仮面をはがせば、麦畑を飲み干す鯨。分解した結末。
「トモちゃん」
ぼくは子熊のトモちゃんがだい好き。
ある日トモちゃんが永遠を連れてきた。
「準備運動」
排気ガス。
真っ赤な水。
空が綺麗。
青空が貼りつこうとした。
冬の風が冷たくなかった。
「異邦人の童話」
飛べないトナカイは教えてくれる。サンタが丸飲みの名人であることを。
「ふたり? ふたつ?」
人間はパソコンを美味しいといった。パソコンは人間を哀れだと言った。