TH.Another Room

学生時代に書いた文芸作品をアップしています。

自戒としての軽蔑

 昨日、私の知人である女性・Mが出演している、素人投稿モノのアダルト動画を鑑賞してみたのだが、全く興奮できなかった。やはり性に溺れる女を、何ら専門的な訓練を受けていない無垢な蛮人が映像で表現しようなど、言語道断であると思い知った。あの視聴者を扇情させる気など皆無なのであろうカメラワークに、ただただ苛立つばかりであった。

 Mは30代前半だが、未だに女子高生に見間違えられる、可憐な淑女である。そんな彼女の、あられもない姿と、ベッドの上で性的に掻き乱されるシーンとを、両の眼に焼きつけたくなり勇気を出して購入してみたのだが、結果は先述の通り、ハズレ。貧乏な自分にとって貴重な1000円と、銀行振込の際の手数料を失う羽目になったのだ。

 しかし、けして無駄遣いではない。

 おそらくMは、プロの撮影スタッフの手にかかれば、一級品のアダルトビデオの女優として変異できるほどのスペックの持ち主である。顔や肉体は平凡で、一見すれば何の変哲のない、ただの肌の白い女性なのだが、あのアニメチックにして病的な聖性の伝わるソプラノヴォイスで淫らに喘がれ、狂的に発情しない男など現世にいないと言い切ってもいい。

 そんな彼女を、素人の自分ですら稚拙極まりないと断定できてしまうアダルト動画もどきの、単なる男のオナニーショーの中に収めたことへの怒りが、プロフェッショナルという言葉への意識を激変させた。今までの私は、あらゆる分野におけるプロというものを、おそらく心のどこかで軽く見ていた。そして痛感した。やはり芸術作品は、何の訓練も受けていない素人には生み出せない。本物のアートは、修練なくして完成されるものではない。

 真なる創作の根本原理を直視、直接的な見直しをするための、私個人にとって最も強烈な具体例を得られたという意味では、素晴らしい買い物ができたと言えよう。この体験もまた快い生活を送るためのヒントの1つだ。

開かぬ朝顔

カプリ・チャコール、を吸いながら、今宵の月に、酔いしれる僕。美酒は暗黒。

 

何もかも、血肉とさせる、あの日々を、願わくば、もう一度。

 

帰れぬ二人。常夜の裂け目。もう二度と、戻らぬ過去よ、私を殺せ。

 

血で血を洗う、恋文の、熱と氷に、赤子と骸、蘇る。

 

愛の遊戯に、耽る白猫。愛の狭間に、堕ちる花片、虚空の目覚め。

 

私は祈る。私のために。吐きながら、血を吐きながら、ふと笑う。

 

もう一度、笑い合おうと、呻き去る、私の中の、夜の朝顔

実は虚無についての語りでもある

 専門学校時代に、ちっぽけな苦楽を共にした、私の同期生たちのことを思い出し、ふと思ったことを書き綴ってみた。

 今のところ同期生たちの中で、おそらく最も暇人である(最悪、生活に困窮してお先真っ暗になったら、独りで積極的に餓死すりゃいいじゃないという心構えで生きているおかげで、暇人フリーターであることに何ら抵抗がないのです)私だからこそ思うこと。
 Tライターズ(とある専門学校の生徒たちが書き上げた、文芸作品や日記などが投稿されるSNSサイト。そして、そのサイトにおいて最も精力的に様々な文章を投稿していたのは、私の同期たちである)で、私の同期たちが全く文章を書かなくなったのは、単純に皆が忙しくなったというだけでは、ないのだろうなあ。あそこに自分の書きたいことはないのだと、皆は薄らと気づいたのだろう(あるいは、もう既に書きたいことが何もなくなってしまっているだけかもしれないが。ただし、だとすれば、彼等に対して本気で失望せざるを得ないのだが)。皆がログインしても、近況を録に書かなくなったことから考えると。もしくはTライターズ以外に、自分の中に湧き上がった言葉を放出するに相応しい場を見つけ、その新しい場(たとえばブログやツイッターなど)で活動するようになっただけかもしれないが。
 無論、これを悪しき事態であるとは一切思わないし、全く悲しいことであるとも思わない。良いことであるのかは分からないが。
 そして、この事実から思いついたことがある。学校も、会社とさほど変わらない、檻なのだと。仲良くなれそうにない人間とも上手く付き合っていかなければならない閉鎖空間。
 僕らは、さほど心の底では繋がっていないのだ。ただ単に気晴らしのために仲良くしていただけ。ただ単に自分自身の暇を潰すために利用し合うための仲に過ぎない、のだとも言えるのだ。元より、だいたいの私たちが他人と関係するのは、あくまで人間が自分ひとりでは生きていけない脆弱な存在であるゆえに、他者の力を借りなければ生きていけないからだ。
 ただ、かと言って、人と人との関係性が、ここまで単純なものであると豪語するつもりもないのである。それだけの理由で、すべての人間が他者と関係するわけでも、もちろんない。だが、それ以外の理由を言語化しようとしても、私には無理なのだ。そして私には人間関係を作るということ自体に何ら快楽を見いだせない。だいたいの他人と遊ぶということには、それなりの快楽を見いだせるが、あの程度の快感を得るために、わざわざ人間関係を築き上げようとすること自体が、ひどくバカらしいものとしか思えないのだ。
 ところで私個人が人と関与してみるのは、自分自身にとって興味のある事物を見せてくれそうだからであり、人間自体が芸術の素材だからである。人間の言動は、すべてが創造のための足がかりであり、そして人間の生み出してきたものすべては、創造のための材料であり、道具でもある。
 しかし、このような理屈をアレコレと述べたところで、結局は気晴らしのために、自分自身の暇を潰すために、そして自分自身にとっての利益を得るために、使っているだけであると言えるということには、変わりない。
 結局、僕は、僕たちは、同期たちに何ら価値のない存在として見なされたことによって、あのサイトにて何も言葉を生み出さなくなっただけなのだろう、という風にしか自分には思えない。自分の中の何かを言葉にしてみることによって、自分の中での消化できないモヤモヤを攻略できるようになったり、その言葉への様々な反応を頂戴することによって新たなる気づきを得られるようになったり、などの無視できない利点が生まれることから考えても、ね。
 だが私には、彼等が日常にて起こったアレコレから湧き上がってきたモノの言語化をしないで気が済むほど、ヤワな存在であるとは思えない。どんなに忙しくても、どんなに疲れ果てても、それでもなお、どこかで自分の中の熱を言語化しなければ気が済まなくなるようになるのが、創作と文芸を学んできた者としての、生き様であろう。
 私は同期たちに、またTライターズで近況や何か適当な事をバシバシ書き込むようになってほしいと望んでいるわけじゃない。私の知らないどこかで、あなたたちが言葉にしたいことを、きちんと言葉にできているのだろうか、と、ほんの少し心細くなっているのだ。
 今だからこそ言えるけど、僕は同期である君たちのことを、そんなに好きじゃないよ。君たちも僕のことは大して好きじゃないだろうし(むしろ嫌いで嫌いで仕方ないという人間もいるかもしれないが)、それくらいで僕は全然いいのだよ。でも心のどこかでは、なんだかんだで君らが幸せに生きてくれることを、ほんの少しは望んでいるのだよ。私にとっては、どうでもいい君たちであろうとも、それでも脆弱にして可憐な人間なのだから。

人はなぜ虫を嫌うのか、という問いかけへの回答

 虫は好きです。道具として。使用法は以下の通りです。

 幼女の、まだ産毛の生え揃っていない膣にゴキブリを這わせるのがイイと思います。特にイチゴ柄の下着の中に忍び込ませるのが最高だと思います。幼女の泣き顔は、きっと自分の彼女とのノーマルなセックスよりも遥かに興奮するでしょうし、引田天功の脱出ショーの動画よりも遥かに見応えがあるでしょう。

 あるいはジュースの入ったコップの中にイモムシを入れて、入念にかき混ぜ、三分たったら取り出して、ものすごく喉が乾いている人に「はい。冷えたジュースだよ!」と看護婦のような笑顔で渡すのも味があります。

 もしくはトランクスをはいた男のトランクスの中にオオハサミムシかケムシを、女の下着の中にヘラクレスオオカブトを入れるのも趣があっていいと思います。男が性病だったならば、女が処女か未亡人だったならば、しめたものです。ただし女の場合、ブスは嫌なので、そこらへんは誤解しないでほしいですね。

 でもやっぱり、私が一番好きなのは、人間界の汚れを全く知らない無垢な青虫を、美女の女性器か、美少年の肛門か、死体の眼窩の中にねじ込むことです。実際にやったことは勿論ありませんが、もし実際にできる機会が来たならば、ピカソマグリットの絵にも劣らぬ程の芸術作品を創れそうな予感がします。

 この通り、昆虫は一般的な人間の様々な欲望を満たしてくれる最高のパートナーであり、色々な意味で無限の可能性を持った生物なのですから、われわれ人間は、もっと彼等を尊重しながら生きていくべきだと思います。

代弁屋

「嘘をつかなきゃ生きられない、ほんとのことを言ったら殺される」と思い込まされている僕にとって、「代弁屋」は、とても魅力的な仕事人。僕は父親に虐待されていて、彼は日々のストレスを発散するために、愛するべきはずの息子の体を殴ったり蹴ったりするのだ。

 でも、たまには本音で話してみたくなることもある。だから自分の本音を分かってくれる上に、それを言葉に出してくれるという「代弁屋」が居るという話を聞いたとき、心が躍った。これで父とまともに話をすることができると喜んだ。今までは父が怖くて仕方が無かったけど、これならばと。僕は代弁屋と交渉をした。代弁屋は子供の悩みには無料で答えてくれるというので、小学生の僕にはとても有り難かった。

 その日、父が帰ってきて早速私は父に話がしたいと言い、代弁屋を呼ぶ。代弁屋は父の前に現れた。代弁屋の第一声はこうだ。「息子さんはあなたに死んでほしいと思っています」

「あらゆる眠りへ」

 奇抜な男を見かけた。悪夢の目をしていて、三日月の唇を右手で隠した、黒いシルクハットを被った青年が、喫茶店で読書をしている。彼がガラスの向こう側で、ブラックコーヒーを嗜んでいるのかが知りたかったので、私は私の両眼を店内に潜り込ませた。

 左目曰く、男は耐え難き命の苦悩から、数時間後に自殺するつもりでいるらしい。右目曰く、男は古時計の中で最期を迎えるらしい。

 おそらく、私たちの思い出の中で埃を被っている。あれの、ことだ。

 今も鮮明に覚えている。私が少女だった頃、あなたが鏡の前で虚ろな目をしたお祖父様を、包丁で刺し殺したシーンを。少年の涙が、あなたを恋い慕う女の膣の奥に忍び込んでいるのだと、気づかせてくれた、時計の長針。

 永遠に愛しているとは、もう伝えられないのね。でも、それでいいわ。あなたが、過ぎ去りし日々の炎を抱えながら、生きていてくれたのだと知れただけでも、私は、幸せ。

殺戮のルナ・メイジ 9章

 エルザが死んだ次の日、私は学校にいた教師と生徒を、一時間も経たないうちに皆殺しにした。あそこまで容易く殺れるのなら、もっと早く決行しておけばよかった。刃向かう敵の殲滅を成し遂げたあと、激しい興奮のあまり、薄汚れていて悪臭の漂う野蛮人の両腕両足と、かよわくて醜い小人の両腕両足を、祝祭の鮮血とともに、屋上から暗黒の十字紋が描かれた校庭に、どばら、どばら、と、撒き散らすと、最高に心地よかった。

 ただ、騒ぎを聞きつけた国の武力組織であるダーク・ジオの面々が、空から校舎に突入してくるという事態を計算に入れていなかったのは、失態だった。もしかすると、あのダーク・ジオなら――たとえ自国外の大量殺人犯の魔術師であろうとも、積極的に勧誘を行い、その者を厚遇する組織になら――命が狙われるはずもないという甘えがあったのかもしれない。(もっとも奴等からのスカウトなど、断固として断るつもりではあったが)。

 だが結局のところ、彼等もまた無力に過ぎなかった。私が無傷のまま、あっさりと奴等を皆殺しにできたという事実に、大爆笑が止まらなかった。いくら組織の連中が魔十字鎧(まじゅうじがい)に身を隠したところで、ルナ・カノンの前では、所詮は丸裸にかわりなかったのだ。しかも組織の長であり、人界の魔王と畏れられた魔術師を、奴が油断していた隙を突いただけとはいえ、まさか呪文を一発唱えただけで殺せたとは自分でも未だに信じ難い。おまけに魔王の白い覆面を引き剥がしてみると、なんと正体が養父であるベルギムだったとは! 表向きは紳士的な人物を装いながらも、可愛い一四歳の娘に、L側の者を匿う国を壊滅させるための魔術師を養成する学校へ強制的に転学させた中年男ではないか! 自宅の地下室で犬や猫や白い十字紋の付いた人間を魔術の実験台にして徹底的に痛めつけることを何よりの愉悦としていた可哀想な豚男ではないか!

 これでよかったのだ。こうしなければ母さんだって、いつまでも苦しいばかりだった。好きでもないどころか、肩に触れられるだけで嫌悪感が露骨に顔に出るほど生理的に受け付けないようなやつと夫婦でいたって幸せになれるはずがないのだ。今の私の力をもってすれば、レナに苦労をさせずにすむ自信はある。そして明日になれば、どんなに激しく怒られたとしても、泣きつかれたとしても、無理矢理にでも、どこか遥か遠くの国へ、私たちの顔を知らない人たちの住む国へ連れていって、今度こそ安らかな国で暮らさせる。

 この日は、夜遅くになっても、約100匹のピラニアが泳いでいるプールのついた、悪趣味で成金趣味が全面に出たギラギラ豪邸には帰らず、学校の倉庫内で、古びた木の机やら椅子やら拷問器具やらを、鉄パイプでグシャベボコにしながら、ひとりで馬鹿笑いしたり大泣きしたりしていた。ほんとうは、事の最後に、父をバラバラに分解してからすぐに、レナのもとへ戻ったほうが、良かったのかもしれない。でも、どうしても家に戻るのが怖くて堪らなかった。さすがに、あそこまでしてしまえば、目の前で拒絶されると思って。かつて住んでいた家に襲いかかってきた白い兵隊や、ハンネを誤って殺してしまったときも、何も言わずに、泣きながらも、抱きしめてくれた母でも、今度という今度は。

 ジュドがやってきたのは、暴れ疲れて土埃だらけの床の上で、マットも敷こうとせずに寝ようとしていた頃だった。

【ルナ様】脳内に伝わってきた声は震えていた。普段、無感情で、何事にも無関心な彼から、ひどく吃驚させるほどの動揺が、短い台詞から伝わってきた。【重大な報告が】

 起き上がると、思わず目を見開いた。その紺色の冷たい瞳から、殺人鬼の心臓を鷲掴みにする、一筋の涙が流れていたのだ。

(……どうしたの?)

 ジュドは、その問いには返答せず、白い便箋の入った、一通の封筒を差し出した。

【ルナ様】

私は、それを開封し、中身に目を通す。

【貴女なら、私を殺せますか?】

 私は、自分自身でも不思議なくらいに、冷静に、穏やかに、言えた。

「使い魔に主の選択を止める権利はないんでしょ? あんたには何の罪もない。むしろ嬉しいわよ。そこまで母さんを想ってくれてただなんて。それに、どのみちレナは、ああしていたに違いないわよ。いつかは、きっと」

 大粒の涙すら流せずに言った。

「わたしこそ、ごめんなさい。おかあさん」

 もう生きる意味は、なくなった。

 私は倉庫から抜け出し、空に飛び立つ。私が、私を終わらせるところは、既に決めてある。

 アモーゼ島は、まさにルナ・カノンのためだけに作られたような場所だと、円い深淵の傍に座りながら思った。夜空には満月が浮かんでいるが、あれすらも、この底無しの闇に放り込んでしまえば、きっと二度と戻ってこない。

 最期に何を、虚空へ言い遺そうか。特に叫びたい想いなど、がらんどうの肉体に、あるはずもないのだが、それでも何かを、ぽつり、ぽつり、と、歌わなければ、ならないと、感じていた。頭のなかに今も棲みついている、四肢のちぎれた沢山の彼等から、母さんから、見つめられているような気がしていた。

 しかし言うべき言葉が、じっとしていても思いつかず、仕方なく、藍色の瞳を閉ざし、ゆっくりと立ち上がり、体から力を抜いて、ゆわり、と、身を穴に投げ出し、地獄へ近づいていくうちに、ようやく、それが、脳裏をよぎる。

 

 両親が 

 愛する我が子のために 

 してやれることは 

 かぎられている 

 ただ自殺してやることだ 

 あるいは 

 子どもが生まれたばかりのうちに 

 ナイフで跡形もなく 

 紅い無へ還してやることだ 

 これ以外の善行など 

 しょせんは麻薬だ 

 これ以外の祈り方など 

 ありえはしない

 

 

 

 このまま身を任せていればいい。こうして、ずっと瞼を閉じていれば、やがて、私は、いなくなれる。この無限の漆黒を求めていた。誰もいない。恐ろしい人もいない。傷つく人もいない。大事な人もいない。なんて素晴らしい軽さなのだろう。

 そして、これ以上、呻くべきことは、もう何もない。

 あとは、ゆっくりと死を待つだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このときの私に、永遠の光が訪れるとは思っていなかった。