TH.Another Room

学生時代に書いた文芸作品をアップしています。

ミギー

 すまんの。こいつもまだ未完成のままなのじゃ(´・ω・`)

 

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 その日の夕暮れどき、会社から自宅までの帰り道の川沿いで、私は一本の太い腕を発見した。切断口から赤い液がドクドクと流れている右腕を、生まれてはじめて見つけた。私は隆々としたソレ――筋肉質な男性の部品(パーツ)を拾い上げた。家に持ち帰ることにしたのだ。特に深い理由はない。ただ何となく、そうしてみたかっただけだ。妙に重かったので、両の掌の上に乗せて、運んでいった。道中でパーツの切断口から血をポトポトと落としてしまったが、私の服が汚れなかったので問題ない。
 自室のベッドの上で寝かせてみると、なかなか可愛らしく思えるものだ。我が子の寝顔を眺めながら、慈悲深い微笑みを浮かべる母親の心がわかったような気がする。私は、その腕に『ミギー』と名付けた。これから一緒に暮らすことになるパートナーに名前がなければ、色々と不便になるだろうと考えたからだ。私はミギーに、「ここを終の棲家にしないかい?」と誘ってみた。ミギーは「喜んで」と嬉しそうにテレパシーで返事をしてくれた。透き通った女声だった。そのとき私は彼女に惹かれてしまった。もし彼女が私の死を望むならば、私は喜んで自殺するだろう。そういう自信が、私のなかに植えつけられてしまったのだ。
 だから私は、「ミギー。今日から僕を君の下僕として扱き使ってほしい。ミギー、僕は君のためならば世界を滅ぼせる。だから……」
「わかったわ」彼女は言った。「それじゃあ、まずはマッサージを命じるわ」
 私は愛しい声の指示に従った。ミギーの太い五本指、生命線の短い手相のついた手の甲、女爪、薄い毛の生い茂る全身を揉みしだいた。本物の女体に触れるよりも遥かに官能的だ。思わず勃起してしまうぐらいである。
「あぁ……きもちいい」彼女は満足そうに言った。「もういいわよ。次は私を抱っこして頂戴」
 そのとき私の中に電流が走った。ベッドの上の布団には、女性の生理のような血――ミギーの瑞々しい紅色が染み込んでいた。
「どうしたの? じらさないで……」
 私は、まっしろになりながら、ふるえながら、妖女の腕を、抱擁した。抱きしめて数分も経たないうちに射精してしまった。ここちよい虚脱感に襲われた。
「ああ……ミギー……」私は愛する者の名前を呟いた。頬を真っ赤に染めながら。