TH.Another Room

学生時代に書いた文芸作品をアップしています。

殺戮のルナ・メイジ 4章

 今日で日記をつけはじめて、もう10日目。わたし、はじめて友だちができた。ひまわりのついたむぎわらぼうしをかぶった、えがおのまぶしい女の子だった。なまえはハンネ。学校をぬけだして、ピュオーネ川のほとりで小石をなげてあそんでたら、いっしょにやろって声をかけてくれた。ほほの黒いきずをみても、にげださなかった。ほんと? ってきいたら、うんって頷いてくれた。うれしかった。だからわたしたちは、夕日が空にのぼるまで、ずーっと ぽちゃーん ぽちゃーん ぽちゃーん まあるい音を、かなでてた。元気いっぱいに、わらいあいながら。
 カラスがなきはじめた。ハンネは、かえらなくちゃって言った。わたしが急にさびしくなって、とちゅうまで、いっしょに帰っていい? あたしのいえ、すぐだからってきいたら、おひさまみたいににこにこしながら、いいよって言うと手をつないでくれた。夕やけがむねにしみて、なきそうになった。
 かえりみち、わたしはハンネに、またあそぼうねって、うそをついた。ヒトをだますのは、とくい。あたしは一生うそをついて生きないといけないって、お母さんになきながら言われたから、うまくなった。しかたなく。
 だけどハンネは、きらきらえがおで、うんって言ってくれた。あたまとむねのなかがナイフでぐちゃぶしゃにされてるみたいに、めちゃくちゃになった。
 あと、おくすりのせいで、げろをげーげー、じめんにびちゃびちゃ、はきたくなったけど、今日はまだ、がまんできた。いつもより、らく。おなかもすいたし、ねむりたい。
 でも、ぶじにたどりついた。
 ハンネは、のんきにわらった。
「ねえねえ、あたしのおうち、ちょっとだけよってく? ばんごはんいっしょにどう? デザートのプリン、わけてあげよっか?」
 わたしは、ことわった。これいじょうは、だめだった。プリンはたべたかったけど。
 すると、ガチャリとドアが開いた。
「この大ばか!」
 白ぶたみたいなおばさんが、いきなり出てきて、ハンネのほほを思いっきりはたいた。
「ママ?」
ハンネは、なきそうになっていた。
「どうして、マジョなんかとあそんでたんだい! おまえには見えないの!? こいつのかおについた、のろわれた黒いじゅうじのモンショウが! あああああ! マリアさま! ゆるしてください! わがむすめハンネのぐこうを! どうか、どうかごじひを!」
 白ぶたはハンネをだきしめると、なきくずれた。いつのまにか、くすりのこうかがきれていた、わたしのかおをみてしまったせいか、ふるえながらマリアにゆるしをこいていた。
 わたしはふるえた。ゆびさきに力が入りこんだ。マリア。いだいなるめがみマリア。わたしたちをめちゃくちゃにしたマリア。
 わたしはねがった。
 
 きえろきえろきえろきえろきえろきえろきえろきえろきえろきえろきえろきえろきえろきえろきえろきえろきえろきえろきえろ

 

 すると、ひとすじのきぼうがおとずれた。
 いつのまにか、ふたりは、あたらしいすがたに生まれかわっている。これならわたしとハンネは、なかよしでいられるし、あの白いブタだって、ちゃんとみとめてくれる。
 わたしは太くてみにくい左うでを、ふみにじると、ばらばらになったハンネの右うでを、だきしめた。かるかった。ワンピースが血でよごれちゃったけど、うれしかった。
 はじめての、おともだちができたから。