TH.Another Room

学生時代に書いた文芸作品をアップしています。

自戒としての軽蔑

 昨日、私の知人である女性・Mが出演している、素人投稿モノのアダルト動画を鑑賞してみたのだが、全く興奮できなかった。やはり性に溺れる女というものは、何ら専門的な訓練を受けていない無垢な蛮人が表現できるほどの安っぽいモチーフでないのだと思い知った。あの視聴者を扇情させる気など皆無なのであろうカメラワークに、ただただ苛立つばかりであった。

 Mは30代前半だが、未だに女子高生に見間違えられる、可憐な淑女である。そんな彼女の、あられもない姿と、ベッドの上で性的に掻き乱されるシーンとを、両の眼に焼きつけたくなり勇気を出して購入してみたのだが、結果は先述の通り、ハズレ。貧乏な自分にとって貴重な1000円と、銀行振込の際の手数料を失う羽目になったのだ。

 しかし、けして無駄遣いではない。

 おそらくMは、プロの撮影スタッフの手にかかれば、一級品のアダルトビデオの女優として変異できるほどのスペックの持ち主である。顔や肉体は平凡で、一見すれば何の変哲のない、ただの肌の白い女性なのだが、あのアニメチックにして病的な聖性の伝わるソプラノヴォイスで淫らに喘がれ、狂的に発情しない男など現世にいないと言い切ってもいい。

 そんな彼女を、素人の自分ですら稚拙極まりないと断定できてしまうアダルト動画もどきの、単なる男のオナニーショーの中に収めたことへの怒りが、プロフェッショナルという言葉への意識を激変させた。今までの私は、あらゆる分野におけるプロというものを、おそらく心のどこかで軽く見ていた。そして痛感した。やはり芸術作品は、何の訓練も受けていない素人には生み出せない。本物のアートは、修練なくして完成されるものではない。

 真なる創作の根本原理を直視、直接的な見直しをするための、私個人にとって最も強烈な具体例を得られたという意味では、素晴らしい買い物ができたと言えよう。そして、この体験もまた快い生活を送るためのヒントの1つと成り得るだろう。