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TH.Another Room

学生時代に書いた文芸作品をアップしています。

題:「沈黙の狂気が、そこにあった」

 4時間前に見た夢のメモ書き。

 夢の中での私は夜道を散歩していた。その途上で、ごうごうと炎上している大きな洋館を見かけたので、慌ててポケットから携帯電話を取り出し「火事です!」と通報したのだが、なぜか通話相手が物腰柔らかい老婆で、耳が遠かったせいなのか、こちらの話が全く通じない。これではキリがないと瞬時に判断し、とりあえず言いたいことを早口で伝えるだけ伝えて電話を切ったあと、すぐさま燃え盛る館の入口の前へ、「ヤヨイさん!」と叫びながら駆け寄った。しかし火の勢いが強すぎて、とてもじゃないがヤヨイを助け出すなど不可能だった。

 洋館から少し離れたところで立ち尽くしながら、燃え盛る様を怯えながら見守っていると、なんの脈絡もなく地獄の業火が、聖なる魔法にかけられたかのように、一瞬のうちに、みるみる弱まっていき、何事もなかったかのように元通りの白い豪邸に再生し、そこから住人らしき30代後半の女性ふたりが飛び出てくる。

 その女性らが私の横を通り過ぎた。黒い短髪で銀縁眼鏡をかけた前歯の一本欠けた女性が、「ヤヨイはどこ?」と極めて軽い口調で、傍にいる黒い長髪で釣り目の綺麗な女性に問いかけていて、「私たちより先に、どこかの川原に逃げ込んで倒れてるらしいよ」と、不条理なほどに呑気な調子で返答されていた。私は思い当たる節のある川原へ迅速に向かった。そこではヤヨイを見かけなかったが、「うー、うー」と涎を垂らしながら、ぬかるんだ地面の上に敷かれたダンボールの上で寝転ぶ、ロリータファッションの女装をした中年のような性別不詳の醜い人間ならいた――これは明らかにヤヨイではない、はずなのだ。

 しかし私の後に到着した例の女性陣は、その人物を「ヤヨイ」と見做しているようだった。二人は彼?の両腕と両足を無造作に掴んで、無表情に、どこかへと運んでいった。

 得体の知れぬ虚無感に襲われた私は、何も見なかったかのように自宅へと戻っていく。

 ここで夢は終わる。