TH.Another Room

学生時代に書いた文芸作品をアップしています。

詩「切り裂きジャックの証」

切り裂きジャックの証が欲しかった頃
俺は赤い血の中に花束を見た
一粒の砂の中に吐き気を覚えた
天井の蜘蛛に悪意をぶつけた
見えないナイフで愛する人を切り裂いた

切り裂きジャックの証を手に入れた時
夕焼けが俺の目を抉った
一杯の水が女神を殺した
兵士たちは狂える羊の腹の中にいた
世界のどこかで死者が産声を上げた

切り裂きジャックの証を失った間
瞳の奥にある言葉を失った
悪鬼は銃を撃ちまくった
聖者は仮面を外し、豚の顔を晒した
俺は暗黒の中にゆりかごを見た

切り裂きジャックの証を取り戻した夢の中で
俺は太陽を切り裂き、月を目覚めさせた
死者と生者に差がないことを知った
移りゆく季節の中で大地のために祈った
一面の黒の笑顔は何よりも優しかった

だから

切り裂きジャックである必要はなくなっていた




切り裂きジャックの証を空に返した日
夢は必ず叶うと知った
命は誰かのためにあると分かった
愛は俺だけの空を見せてくれた
魂のなかで本当の笑顔が待っていてくれていた