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TH.Another Room

学生時代に書いた文芸作品をアップしています。

子ぎつねと天使

  ぼくはきつねの男の子。ある日火縄銃で撃たれて死んだんだ。つまり今ぼくは幽霊。おなかがすいてたから、人間が釣った魚を盗んじゃって、怒った釣り人に殺されたんだ。
 ぼくは人間の男の子と一緒の家に住んでいたんだ。いっぱい油揚げをくれたから、ぼくはあの子が大好きだったし、あの子もぼくのことを友達だって言ってくれた。でもね、あの子は重い病にかかって、ぼくより先に死んじゃったの。
 ぼくが幽霊になってから、あの子をさがしてみたんだけど、どこにも見当たらないんだ。いつになったら会えるんだろ。もしかして、遠いところへ旅にいってるのかな。でもぼくは、もう一度あの子と一緒に遊びたいから、今もあの子の家でずーっと待ってるんだ。
 その日も家の中で、あの子が帰ってくるのを待っていると、頭の上に白く光る輪っかを浮かべたてるてる坊主みたいなのが、ぼくの前に現れたんだ。ぼくが目を丸くしていると、「僕は天使さ。君を迎えに来たんだ」
 ぼくはきつねだからそう言われてもよくわかんない。でも天使さんはこう言うの。
「一緒に天国へ行こうよ。君の大好きな油揚げも食べ放題だよ」
 天国がどんなところかわかんないけど、油揚げが好きなだけ食べられるなんて、すごく幸せそう。
 だけどぼくは、「あの子と一緒に行ける?それともそこにいるの?」と天使さんに訊いてみたんだ。どうせ油揚げを食べるなら友達と一緒のほうが、おいしいに決まってるもの。
 でも「それはできない」みたい。
 ぼくは首をかしげた。
「どうして?」
「彼は悪いことをしたから行けないんだ」
「あの子は悪いことなんかしてないよ」
「君は知らないのかな?彼は自分のお父さんを殺した大罪人なんだ。だから今は地獄で苦しんでいるよ」
 ぼくは地獄がよくわかんないけど、あの子がつらい目にあってることはわかった。でも、あの子が、どうして自分のお父さんを殺したのかをぼくは知ってる。だからあの子が地獄へ連れて行かれたなんておかしいと思ったから、ぼくは天使さんに尋ねてみたんだ。
「あの子のお父さんはひどい人だったんだよ。あいつはいらいらした時にあの子の体を、気が済むまで殴ったり蹴ったりして楽しむ奴だったんだよ。それでもあの子はお父さんが好きだったから、じっと我慢してたんだ。でも、あいつはぼくを火縄銃で撃ち殺そうとしたから、あの子はぼくのことを守るために、自分の親を殺したんだよ?どうしてそれがだめなの?」
 あの子は、自分のお父さんを殺したことを、最期まで悔やんでいたんだ。どんなにひどい奴だって、自分の親だもの。
 でも天使さんは、こう言うの。   
「いくら事情があろうと、僕にはどうしようもないんだ。何故なら、神様が作ったルールに僕達天使は逆らえないんだ。神は絶対だから、たとえどんなに理不尽であっても仕方がないんだよ。神様が作ったルールの中では人を殺すのは、最上級の罪なのさ。どんな理由があろうと、神罰からは逃れられないんだ」
 ぼくは神様が作ったルールなんか知らない。
「……どうしてぼくは、天国に行けるの?」
 ぼくはきつねだけど、他人が釣った魚を盗んだぼくが天国に行けるなんて、おかしいと思ったんだ。だからぼくは天使さんに尋ねてみたんだ。天使さんはこう言うの。
「生きるためには仕方がなかったと、神は君に慈悲を与えたんだよ」
「じゃあ、どうしてあの子には慈悲が与えられなかったの?」
「いくら神様でも最上級の罪は許せないんだよ。だから地獄で罰を与えているんだ」
 神様なんか、くだらない。天国と地獄なんてなくなっちゃえ。そう、ぼくは思ったんだ。
 だから天使さんが、「でもね神様は君のことを天国で待ってるんだ。神様は君に慈愛の光を与えて、君の魂に至上の喜びを教えるんだ。それに君の大好きな油揚げだって…」いろいろ言っても、もう聞く気になれなかったんだ。
「天国なんか行かない」
「え? どうして?」
「そんなのが創った天国なんて行きたくないよ。天使さんが言う神様なんか、おばけだよ。本物の神様なら、あの子を許さないはずないもの。ぼくが神様の代わりにあの子へ慈悲をあたえるために、ぼくはずっとここにいるよ」
 それを聞いた天使さんは、すぐに天国へ帰っちゃった。多分これ以上話しても無駄だと思ったのかな。
 油揚げは残念だけど、別にいいや。そんなところで油揚げを食べてるよりも、ぼくはあの子とまた一緒に遊べるほうがいい。
 ぼくは、地獄で苦しむあの子を想った。
 君がいつ戻ってくるかはわからないけど、ぼくはずっと待ってるよ。だってぼくは君の友達だもの。