TH.Another Room

学生時代に書いた文芸作品をアップしています。

殺戮のルナ・メイジ

殺戮のルナ・メイジ 12章

ルナ・カノンは島内に潜伏していた何名かの魔術師を始末してすぐに、ドロシーと出会った日に唱えた「オルド・リム」を再発動し、殺人の後始末のできる掃除機を取り寄せ、すべての刺客の胴体と四肢、および、生々しい怨念の伝わってこない血痕を、ギュグラギ…

殺戮のルナ・メイジ 11章

幸福とは、偉大なる温もり。朝食のオニオンスープとチーズパンを胃に流し込み、歯磨きを済ませ、恋人にキスをせがんで、そのあと正午を迎えるまでの間、ふたりで毛布に包まり玉の汗の吹き出る皮膚と性器の熱情を味わい尽くしたあとに直観した真理。 ベッドシ…

殺戮のルナ・メイジ 10章

帝国からの刺客を撃退した日の翌朝に、ルナはドロシーの逃げ場を確保し、そこへ共に脱出しようという目的で、ベルドラード島の上空を飛行していた。とりあえず島から遠く離れられれば、安住の地が見つかるかもしれないと思い、天へ飛び立ってみたのだ。あそ…

殺戮のルナ・メイジ 9章

エルザが死んだ次の日、私は学校にいた教師と生徒を、一時間も経たないうちに皆殺しにした。あそこまで容易く殺れるのなら、もっと早く決行しておけばよかった。刃向かう敵の殲滅を成し遂げたあと、激しい興奮のあまり、薄汚れていて悪臭の漂う野蛮人の両腕…

殺戮のルナ・メイジ 8章

【ルナ様、まだ起きていらっしゃいますか?】 深夜2時。ジュドは円い天井灯の傍に立ちながら、ベッドの上の主にテレパシーを送る。彼女の額からは大粒の温い汗が白いシーツに垂れ落ちており、苦しそうな呼吸の音が灯りの消えた室内に鳴りわたっている。【頼…

殺戮のルナ・メイジ 7章

窓を開けても、風の音も、虫の声も、死者の囀りすらも聴こえてこない夜だった。「もう九時半ですね」 ドロシーはテーブルの傍から、ベッドの上で部屋の外を眺めているルナに話しかける。「あ……そういえば、一つだけいいですか?」 彼女は満面の笑みを浮かべ…

殺戮のルナ・メイジ 6章

その日の午後は、授業をサボって学校の屋上からシリアルキラーのような青空を眺めていた。今日も聴こえてくる。私たちユダマの使徒らが殺戮してきた、マリアの使徒たちの嘆き声。生まれた時から白い十字紋を体につけていただけで迫害された者どもの悲痛の叫…

殺戮のルナ・メイジ 5章

『衰弱の島』――正式名称はベルドラード島というのだが、その孤島で強制労働に従事する、明日への希望を見失った労働者の間で流行した、禍々しい俗称である。 島の中央部には、小規模で錆びれた工場があり、そこは奴隷たちの働き場。小さな牢獄の内部に漂う、…

殺戮のルナ・メイジ 4章

今日で日記をつけはじめて、もう10日目。わたし、はじめて友だちができた。ひまわりのついたむぎわらぼうしをかぶった、えがおのまぶしい女の子だった。なまえはハンネ。学校をぬけだして、ピュオーネ川のほとりで小石をなげてあそんでたら、いっしょにや…

殺戮のルナ・メイジ 3章

その日の夜空に浮かぶ橙色の満月は、無機質な箱の中の、惨劇の舞台を照らせない。 目覚めると、世界が牙を剥いていた。無垢なる視界は、広漠の絶望に埋め尽くされている。戦慄のあまり背筋が凍りついて、肉体の震えが止まらない。宇宙のすべてとともに、体中…

殺戮のルナ・メイジ 2章

扉を閉めると、一面の薄闇に覆われた。辺りを見回すと、どうやら狭く古びた部屋に入ったようである。室内は、がらんどうで、埃臭さが漂っている。 「………………………………………………」 (行き止まり?)と一瞬だけ思ったが、おかしい。あのドアには『地下倉庫』と書かれ…

殺戮のルナ・メイジ 1章

声が聞こえたような気がする。けれど、それがどこから放たれたのか、どのような声かは分からない。テレパシーか空耳? なぜだか奇妙に心に引っかかり、少年はしばらくの間、動かしていた手を止めて、じっと耳と心を澄ませていた。 だが工場長の掠れた怒鳴り…

殺戮のルナ・メイジ 0章

彼女にとって人類を滅ぼすことなど造作もなかった。彼女にとって自分以外の人間など芥ほどの価値はなかった。彼女にとって命になど塵と差はなかった。彼女からしてみれば現実と虚無に何の違いがあるのか分からなかった。 無数の命は無の彼方へと去り、ただ血…